シートン院長とウサギとハムと子供たち
昔むかし, シートン動物病院ができたころ。ハムスターやウサギを一般家庭でペットとして飼育する人が少なかった頃のお話です。
そして動物病院といえば、イヌネコ病院と思われていた頃のお話です。
小学校や幼稚園、保育園など子供たちの教育の現場では、子供の情操教育の一環として小鳥やハムスターやウサギなど小さな動物たちが飼育されていました。ウサギやハムスターの具合がわるくなると、何人かの飼育係の子供たちが動物を大切にハンカチに包んで
「先生、診てーぇ!!!! 先生っ、お願い、助けてー!!」
と泣きながら、小銭の入ったビニール袋を握り締めてシートンに駆け込んできたものでした。きっと、みんなでお小遣いを出しあったのでしょう、一円玉や五円玉、十円玉。いくつか入った100円玉は担任の先生のカンパでしょうか。
さてその頃ですが、シートン先生も含めて獣医さんは獣医大学でウサギやハムスターの医学を勉強もしたことはありませんでした。 もちろん皆、臨床経験があるわけではありません。シートン先生も同じでした。
子供の頃に学校の動物をこっそりつれて帰って背中をなでたり、野菜を食べさせたり。皆さんと同じぐらいの経験しかありませんでした。しかし子供たちの涙や、純粋な優しい慈しみの心を見て、とても心が動かされました。そして先生は・・・・何とかしてあげたい!私たちもこの子供たちと同じように獣医師として、この動物たちを助けたいと強く思いました。
それから子供たちの笑顔が見たくて、シートン先生は毎日診療が終わると夜中から朝方まで勉強をしました。当時エキゾチックアニマルやうさぎに関する医学書は洋書しかありませんから、先生は英語やフランス語の辞書を頼りに毎日、毎日一所懸命専門書を読みました。
もちろん薬だって何を使えばいいのかわかりません。薬の量や種類もなにもかも、あれやこれや手探り状態ではじめた診療でした。
そして先生の手当てや子供たちの看病のおかげで、学校の動物たちの病気が良くなると、子供たちに笑顔が戻ってきました。
「先生!!ありがとうございましたぁ!!!!」
「先生!!!よかったぁ!!!ありがとう!!」
と大きな声で頭を下げ、うれしそうに大切に抱きかかえて、はしゃぎながら帰って行きました。
現在私たちのシートン先生はウサギやハムスターの専門医として、また外科医としても皆様にご信頼をいただいています。でも・・・・実は今のシートン先生の臨床経験や診療技術を磨いてくれたのは、学校ウサギや学級ハムスターを連れてきてくれた、あのときの「子供たち」なのです。
今、これを読んでくださっている方の中にも、あのときビニール袋を握りしめて待合室で泣いていた
20数年前のかわいい小学生がいらっしゃるのではないのかな?と考えると感無量です。